これからも町は廻っている

著・石黒正数『それでも町は廻っている』
『それでも町は廻っている』が単行本・第16巻を刊行。最終巻となった。

確認してみたところ、第1巻が2006年1月の発売なので、それから10年強で単行本が完結したことになる。

たしか第3巻ぐらいが発売されたときに店頭で立ち読み用の第1巻が置いてあって、それをたまたま手に取って、なんとなく気になって、そのまま既刊を買った。

なんとなくである。別に「これはすげえ!」とか「これずっと単行本になるの待ってたんだ〜!」とかではなく、なんかこう、どうも引っかかって、買ったのだった。

大体、あらすじを書いてみると「ミステリー好きの女の子がメイド喫茶で働く」という、当時としても別に斬新なわけでもなく、いやいやとんでもない迫力なのかといえば、まあそんなこともなく。

ただ、どうにも引っかかった。そういう本は多分、私に限らずあるものだと思う。そして大半の本は、ただの気のせいで終わる。

ところがこのシリーズは、そのまま私の中でずっと「主人公の物語」として居座り続けた。普段は私が買ってくる漫画を読まない実兄も、「これ面白かったぞ!」とわざわざ報告してきた。なおその実兄は現在、結婚して養子に入り二児の父親である。最近の悩みは長女がしょっちゅう風邪を引くこと。

閑話休題。いや、そうでもない。言ってみればこの本は、主人公の嵐山歩鳥というキャラは、私にとって実兄みたいなものなのである。ずーっとどこかでわちゃわちゃとやっていた、よく知っているけど全然知らない人なのだった。女の子なのに実兄にたとえて申し訳ないが。

この漫画の魅力は、語ろうと思えばいくらでも語れる。すでに語っている方もいる。たっつんの間抜けさとか、紺先輩のいじましさとか、こぶ平ことクリーニング屋のおとぼけとか、ばあちゃんの味わい深さとか、ミステリーなのかSFなのか判然としないけれど居心地のいい世界だとか……いくらでも語れる。

そんな中、歩鳥は物語としての最後に、語るべくことを語った。大仕掛けが解かれたわけでもない。生活の中にいくらでもある不思議なことや悲しいこと、うれしいこと、ありえたこと、ありえなかったこと。その中で一つだけ、歩鳥は自身の成長の象徴となることを語って終わった。

ありがとう、石黒正数先生。最高の十年間と、一生の思い出になる漫画を。

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