取り回しの利く資料が出回るのは単純にありがたい

東京都青少年・治安対策本部 東京都青少年の健全な育成に関する条例及び規則についてのページに、今回の条例改正についてのパンフレットが追加されました。これまでのどの文面よりも読み易く、これまで指摘されてきた部分などについて書かれています。同じページには『青少年健全育成条例改正案における漫画等に関する質疑について(平成二十二年第四回都議会定例会本会議)』などもあります。こちらも併せて読むと、よりわかりやすいと思います。

さて、繰り返し似たようなことは以前から言っていますが、これは先行きが不透明なことです。私が漫画家の方々の表現の自由についての声明以外の論に特に支持する根拠を見出せないでいるのも、「条例が一度通ってしまえば、後はどうなってしまうかわからない」という面が強いからです。

条例改正自体の根拠については、最高裁の判例及び補足意見などを鑑みた場合、問題が無い。これが前回の記事で書いた、都側のロジックです。そして私が知っている限りでは、条例改正を行政が断行することそのものの根拠として、これを破綻させうるだけのものはありませんでした。質疑を踏まえた上で賛成多数で改正が議決された事実が、それを何より物語っています。

「じゃあ科学的根拠も無いのにこういう条例が改正されたりするのは良いのか?」

いいえ。ですから反対しています。正確に書くと、科学的根拠だけでなく、「行政として」の青少年と性犯罪と漫画他についての関係の確固とした調査結果、出版社との事前協議が具体的にどういったものだったのか、条例改正の実効性を謳うのであればそこら辺をはっきりさせてほしいのです。一部の問題だからといって(しかもその一部がどこまで拡大するかもわからないのに)、数字を曖昧にして良いようには私には思えません。

これらの説明責任が全て都だけにあるとは思いません。出版関係者や司法関係者など、各方面での取材や議論で明らかになっていけばと思います。そうした点を広く社会に浸透させずに政治的意識ばかり煽ったところで、今回のような混乱を繰り返すだけではないでしょうか。もちろん、議決に当たって政党内での調整などもありましたが、それこそ政治家の責任として追及されるものでしょう。議会の在り方について話し始めるとキリがありませんので、ここら辺にしておきたいと思います。

なお、この条例は取沙汰されている漫画他の問題だけでなく、インターネットのフィルタリングや児童ポルノについての保護者責任などにも触れています。パンフレットはちゃんとそこら辺も書いています。漫画やアニメ以外のことに興味が無い方でも、せめてそこだけでも問題意識を持って、読んでいただければと思います。

話を戻します。都側の提供する資料の中に、数字に関連したものもちゃんとあります。東京都青少年健全育成審議会の審議結果から平成16年度以降の不健全指定された図書の数を調べてみると、242(ビデオテープやビデオディスクは除く数)です。これについて『現行基準に基づいて、平成十六年度以降現在まで不健全指定された図書類の約五一%は、自主規制団体に属さない、いわゆるアウトサイダーの出版社により発行されたものであります。このようなアウトサイダーについては、積極的な自主的取り組みが期待できないものであることから、自主規制団体による自主規制だけでは十分ではありません。』と『青少年健全育成条例改正案における漫画等に関する質疑について』では触れられています。この数字が根拠として妥当なものかどうかは各自で比較・確認した上で判断してください。

各審議結果については都青少年・治安対策本部の別のページから読めますし、実際、どういう風に業界側の自主規制について話し合いが持たれるものかなども読むことができます。関連した書籍なども販売されていますが、インターネットで確認できる資料もあるのです。

多分、こうした記事をざっと読んでいただいた方の中には「こいつは結局、賛成なのか反対なのか怪しいんじゃないか?」と思われる方もいるかもしれませんが、繰り返しますように、今回の条例改正には反対です。

ただし、賛成だ反対だの間で、何が問題であるかの追究が埋もれてしまうことに、危惧を覚えます。賛成・反対の間では、都と出版社のそれぞれの問題点や司法の解釈、個々の作家の環境の差や業界全体の問題といった点は、片方に有利か不利かだけで論じられて、振り分けられてしまいます。現にtwitterなどの一部の発言の扱いが大きくなってしまう場所では、余計な騒ぎなども目にします。なお、結果として「誤解でした(笑)」と笑い話で済んでる場合もあります。twitterそのものが悪いかのような言い分は妥当ではないでしょう。

今回、この記事はパンフレットについて触れると共に同じ場所でどれだけの資料を確認できるかを紹介するのが主旨でしたが、ちょっとしたまとめのようになってしまいました。ここまで読んでいただけたなら、幸いです。

コメント