東京都の青少年健全育成条例の改正案に関して

最初に、青少年にかかる諸問題の解消について活動、苦心されている、全ての方々に敬意を表させていただきます。

この文書は、東京都の青少年健全育成条例の改正案について、自身の拙い考えについて反省すること多々であることを各々に謝罪すると共に、文筆活動を行う仲間等との意見交換の際の礎となることを望んで書くもので、政治的な考察や表明に足せるものではないことを、先ず断らせていただきます。

また、改正案そのものに反対することについての考えと、それを受けての諸所での動きや対話は分けて考えるべきであり、それについてはtwitterなどで私の曖昧な発言が目立ちました。ここにお詫びさせていただき、分けたものを以下に書き記します。基本的にはこの考えが全てで、もし誤解されるようなことがあれば、それは私の不勉強と拙さのためです。

東京都の青少年健全育成条例の改正案そのものについて

これまでに記者会見という形で発表された反対声明を全面的に支持します。今回の改正案はいたずらに解釈の幅を増し、運用する側とそれに協力する方々の負担を増大させるものです。

現状の条例の運用においてさえ、調査結果や話し合いを踏まえる形で都民の方々や出版物を愛好している方々への説明を行っておらず、改正案の発表後の不安についての解消も満足に行われておりません。どういったものが規制され得るもので、どういったものが児童ポルノかの区別についての、慎重さを伴う周知も進んでおりません。

以上についてはとりわけ出版や作家、小売りへの影響が大ですが、問題はそれだけではありません。児童ポルノの根絶については、保護者への負担がどのように変化し、どのような責任を果たす必要があるのか、議論を通じての理解を進ませる必要があるにも関わらず、都側は出版社との対立や漫画家らについて触れるばかりで、保護者不在の論調は甚だしいものがありました。PTA等に関わる各団体の賛成だけで、都民生活に浸透しうるものではありません。

このまま条例が成立したとしても、禍根を残し、話し合いの機会を喪失させ、行政、出版、作家、消費者、保護者、それぞれの一方的な行動のみが目立つようになるでしょう。そのような分断状態は誰にも望まれるものではありません。

改正案にかかる諸所での動きについて

現在の出版などにかかる諸問題が、十分な危機感をもって対応されているとは、一消費者としても、文筆活動に関わる者としても、思えません。これは何も業界の責任だけを言っているのではなく、行政側の慎重さ、配慮の欠如も今回の件を見れば明らかです。一方で、少し耳を澄ませば、自助努力によって少しでも出版物などに触れる方々の利益になるよう努めている方々の働きも聞こえてきます。

これから、漫画やアニメといった、改正案で名指しされたものが一個人に与える影響は増大するでしょう。出版業界自体の儲けの多少は関係なく、むしろ業界の景気が悪くなればなっただけ、一つ辺りの企画、商品、作品の及ぼす影響は大きくなると考えるべきでしょう。販促イベント、同人即売会などの規模や数も無視できないものがあります。こうした中で、自助努力だけでは限界を感じ、行政側(これは都に限りません)と連携しようという動きや、作家間での活発な交流が期待されます。家族でも然り。

それが性的なものかどうかに関わらず、多くの方が作品を通して感性・活動の翼を広げ、専業であるかどうかに関わらず、社会に貢献し、自身と対話し、ある者は国に奉じ、あるときは自己に達する、そうした受容性のある社会こそが、青少年とされる人間に銀色の希望を与えるものだと私は考えます。

結び

以上を踏まえて、最低限の仲間たち、可能であればより多くの人達に、表現の自由だけに囚われない論評、創作を希望し、そのために私が貢献し、死力を尽くしたいと願います。ですが、究極的には作家一人のできることには限界があり、創作にかかるエネルギーは甚大であり、それに対する理解が求められることも現実だと思います。無暗に作家の責任を意識させるような意見には与し難く、私自身にも強く戒めるべき事柄であります。

最後に、文中で「専業であるかどうかに関わらず」と明記したのは、一人当たりに課せられる役割は、現代においては膨大であるからです。父として息子として、配管工として作家として、DJとして介護職員として、教育者として詩人として、母として友として、複雑さは増すばかりです。その中にあって出版物などの存在は何が必要で何が不必要かということを判別するための知識として以上に、個々の生き方を顧み、日々の糧とし、将来に撒く種といえます。

このような営みが、誤解や偏見のみによって破壊されるようなことはあってはなりません。また、一度そうされたからといって、あたら絶望するようなことも、またあってはなりません。

拙文はここまでとなります。ありがとうございました。

  1. 12/10 一部、誤解を招く表現を改訂。
  2. 12/14 規制され得る出版物と児童ポルノについて、分けて記述しました。
  3. 12/16 児童ポルノの根絶についての問題をまとめ直しました。なお既に条例改正案は成立済ですが、あえて成立前の文章を残しておきたく思い、それらについては変更を加えません。

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